銀行が見る「債務償還年数」を自分で計算し追加融資の余力を月次で読む
設備投資や賃上げ資金で銀行借入を抱える中小法人の経営者・経理向けに、銀行が返済能力を測る「債務償還年数」を自社の月次数字で計算し、追加融資の余力を先に読む実務手順を、freeeの数字に当てはめて解説します。
「うちの借入は多い?適正?」が銀行目線で答えられない
融資の相談に行くたび、借りられる額も金利も銀行任せ。この状態の経営者は少なくありません。決算書は読めても、その数字が金融機関にどう評価されるかまでは見えていないからです。
ここを埋める指標が「債務償還年数(さいむしょうかんねんすう)」、つまり今の稼ぐ力で借入をあと何年で返せるかを表す年数です。銀行は融資審査でこの数字を必ず見ています。経営者が同じ計算を自分でできれば、自社の適正な借入額と「あといくら借りられそうか」を相談前に把握でき、交渉の主導権を取り戻せます。
この記事では、計算式の分解、freeeのどこから数字を拾うか、目安の正しい読み方、月次面談での使い方までを通しで扱います。
債務償還年数とは 銀行が返済能力をどう測るか
債務償還年数は「借入を、毎年生み出すキャッシュで何年かけて返せるか」を示す指標です。年数が短いほど返済能力が高く、追加融資の余力もあると評価されます。
考え方は国の中小企業向け診断ツールにも組み込まれています。経済産業省「ローカルベンチマーク(通称ロカベン)」の財務6指標には、債務償還年数の近縁にあたる「EBITDA有利子負債倍率」が採用されています。これは(有利子負債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)で計算し、手元資金を超える借入が本業の稼ぐ力の何倍あるかを見る指標です(出典:経済産業省 ローカルベンチマーク)。債務償還年数と発想は近いものの、分子で現預金を引く点・分母が営業利益ベースである点が異なるため、算式は別物として区別してください。こうした「借入が稼ぐ力の何年分か」という見方は、士業の独自解釈ではなく公的な分析枠組みでも使われている発想です。なお、こうした指標がおおむね10倍(=10年)以内かどうかを一つの目安とする解説が一般的です(出典:債務償還年数とは(エフアンドエム))。
ポイントは、損益(黒字か赤字か)だけでなく「返済原資としてのキャッシュ」を見ている点です。だからこそ利益に減価償却費(現金支出を伴わない費用)を足し戻して評価します。
計算式を分解する
代表的な式は次のとおりです。分子は借入、分母は1年で生み出すキャッシュです。
債務償還年数 =(有利子負債 - 正常運転資金)÷(経常利益 + 減価償却費 - 法人税等)
各項目の意味を整理します。
| 項目 | 意味・拾い方 |
|---|---|
| 有利子負債 | 利息のつく借入。短期借入金+長期借入金+社債など。買掛金や未払金は含めない |
| 正常運転資金 | 事業を回すのに恒常的に必要な資金。売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-仕入債務(買掛金+支払手形) |
| 経常利益+減価償却費 | 本業+財務の利益に、現金が出ていかない減価償却費を足し戻した簡易キャッシュフロー |
| (法人税等) | 精緻に見るとき分母から差し引く。簡易版では省くこともある |
なぜ正常運転資金を分子から引くのか。売上債権や在庫に必要な資金は、事業を続ける限り回り続ける「健全な借入」とみなせるため、返済を迫られる負債から除く考え方です。この控除をしない簡易式を使う金融機関もあります。
重要なのは、式は1つではないという点です。分母を「税引後利益+減価償却費」とする式、正常運転資金を引かない式、さらに分子から現預金も差し引く式(有利子負債-正常運転資金-現預金)など、複数の取り方が実務で併存します。実際、解説記事でも「金融機関によって計算式が変わります」と明示されています(出典:中小企業の借入金の適正額はいくら?(keycrea))。自社の取引銀行がどの式で見ているかは、面談で直接確認するのが確実です。
freeeの月次数字を式に当てはめる
各項目は月次試算表から拾えます。freee 会計を使う場合の探し方の例です(画面名・メニュー構成は変わる可能性があるため、最新はfreeeヘルプセンターで確認してください)。
- 有利子負債:貸借対照表(レポート>月次推移/試算表)の負債の部で、短期借入金・長期借入金・社債を合算します。
- 正常運転資金:同じく貸借対照表から、売掛金・受取手形・棚卸資産を足し、買掛金・支払手形を引きます。
- 経常利益・減価償却費:損益計算書(レポート>損益計算書/月次推移)から拾います。減価償却費は販管費(製造業では製造原価に含まれることもあります)にあります。
月次で出すコツは、利益と減価償却費を「直近12か月の累計(年換算)」で取ることです。単月だと季節変動でぶれるためです。freee の月次推移レポートは期間を指定できるので、年換算ベースを作りやすいのが利点です。
何年なら追加融資の余力があるか 目安の読み方と限界
ここが最も誤解されやすい部分です。「10年以内なら安全」と覚えると判断を誤ります。
一般的な目安として、債務償還年数10年以内なら健全とされ、10年を超えると注意信号と見られる傾向があります(出典:債務償還年数とは(エフアンドエム))。ただしこれはあくまで一般的な水準であって、一律の合格ラインではありません。
理由は次のとおりです。第一に業種差です。製造業など大型設備が必要な業種では、20年程度までが許容範囲と見られることもあります(出典:同上)。第二に、前述のとおり式の取り方(正常運転資金を引くか、法人税等を引くか)で年数自体が変わります。第三に、同じ年数でも財務全体の状況や金融機関の方針で評価は分かれます。
数字はあくまで「自社の立ち位置を測る物差し」であり、合否を一発で決める基準ではないと捉えてください。
試算してみる
前提を置いて計算してみます(あくまで一例です)。
- 有利子負債:6,000万円
- 正常運転資金:1,500万円
- 経常利益+減価償却費(年換算・法人税等は簡略化のため控除せず):900万円
(6,000 - 1,500)÷ 900 = 5(年)
約5年なので、一般的な目安の範囲内にあり、追加融資の余力が見込める水準と読めます。仮に正常運転資金を引かずに計算すると 6,000÷900=約6.7年となり、式の取り方で印象が変わることが分かります。だからこそ「どの式で何年か」をセットで押さえることが大切です。
月次面談での使い方 投資・借入のタイミングを数字で握る
債務償還年数は、毎月追う数字ではなく「投資判断の前に確認する数字」として使うと効果的です。月次面談での具体的な使い方を挙げます。
- 設備投資の前:投資額を有利子負債に上乗せし、増える利益・減価償却も織り込んで再計算し、年数が許容範囲に収まるかを試算する。
- 借入の前:希望額を借りた後の年数を先に出し、銀行に行く前に「いくらまでなら無理がないか」の当たりをつける。
- 改善の方向づけ:年数が長いと感じたら、利益改善・在庫圧縮(正常運転資金の縮小)・高金利借入の借り換えなど、分子分母どちらを動かすかを検討する。
公認会計士・税理士が月次面談に入る価値は、こうした「数字を銀行目線に翻訳する」部分にあります。自社の数字がどう評価されるかを先に知っておくほど、資金調達の打ち手は増えます。
よくある誤解・詰まりどころ
最後に、つまずきやすい点を整理します。
- 誤解1:式は1つだと思ってしまう → 正常運転資金の控除有無、法人税等の控除有無で複数の式があります。自行の式を確認しましょう。
- 誤解2:単月の利益で計算する → 季節変動でぶれます。年換算(直近12か月)で見るのが基本です。
- 誤解3:10年を絶対基準と捉える → 一般的な目安にすぎず、業種・金融機関・式で変わります。
- 詰まり:減価償却費の足し戻しを忘れる → キャッシュフローは利益だけでなく減価償却費を加えます。ここを落とすと年数が過大になります。
この記事の要点
- 債務償還年数は「今の稼ぐ力で借入をあと何年で返せるか」を示し、銀行が返済能力を測る代表指標です。
- 代表式は(有利子負債-正常運転資金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)。ただし式は1つではなく、金融機関や算定者により取り方が異なります。
- 各項目は月次試算表(freee 会計なら貸借対照表・損益計算書)から拾え、利益と減価償却費は年換算で見るとぶれません。
- 「10年以内が健全」は一般的な目安であって一律の合格ラインではなく、業種(製造業は20年程度まで等)や式の取り方で変わります。
- 設備投資・借入の前に再計算し、追加融資の余力を月次面談で先に握ると、資金調達の主導権を取れます。
出典
- 中小企業の借入金の適正額はいくら?平均相場や計算方法を詳しく解説(keycrea)
- 債務償還年数とは?計算方法や借入時の対策、目安をわかりやすく解説(エフアンドエム)
- ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)(経済産業省)
- freeeヘルプセンター
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