夏の賞与、社長が見落とす社会保険の「会社負担」──支給額から総コストを逆算する
夏の賞与の社会保険料は、会社が従業員と折半で負担する。「いくら払うか」は決めても会社負担まで見る経営者は少ない。本稿は中小法人を念頭に、賞与の額面から本人の手取りと会社の総支出を2026年度の料率で逆算する。
賞与額面だけ見ていませんか──「総人件費」で原資を考える
賞与の原資を考えるとき、つい支給額(額面)だけで「100万円のボーナス枠」と捉えてしまいがちだ。だが会社が実際に用意すべき現金は、額面に会社負担分の社会保険料を上乗せした「総人件費」である。
賞与にかかる社会保険料は、会社と従業員がほぼ半分ずつ負担する(労使折半)。つまり額面の外側に、会社がもう一段の負担を抱える構造になっている。原資を額面だけで見積もると、資金繰りで「思ったより出ていく」というズレが生じる。
賞与にかかる社会保険料の仕組み(2026年度料率)
賞与の社会保険料は、額面から千円未満を切り捨てた「標準賞与額」に各保険料率を掛けて計算する(出典:賞与にかかる保険料|日本年金機構)。2026年度(令和8年度)の主な料率は次のとおり。
| 保険 | 料率(全体) | 会社負担(折半後) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 健康保険(神奈川支部の例) | 9.92% | 4.96% | 都道府県で異なる・令和7年度から据え置き |
| 介護保険(40〜64歳) | 1.62% | 0.81% | 全国一律 |
| 厚生年金保険 | 18.30% | 9.15% | 全国一律 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 労使折半 | 健康保険料率とは別建て・2026年4月開始(令和10年度に向け段階的に引上げ予定) |
健康保険料率は都道府県(協会けんぽの支部)ごとに異なり、全国平均はおおむね9.9%前後である。上表は事務所所在地の神奈川支部9.92%を例にした(出典:令和8年度 都道府県毎の保険料率|協会けんぽ)。これらの料率は3月分(4月納付分)から改定されている。
なお介護保険料は40歳から64歳の従業員にのみかかる。2026年4月からは「子ども・子育て支援金」の徴収も始まった。これは健康保険料率(上表の9.92%)とは別建てで医療保険料に上乗せされるもので、令和8年度は全国一律0.23%、企業と従業員で折半する(出典:子ども・子育て支援金制度について|こども家庭庁)。料率は2028年度(令和10年度)に向けて段階的に引き上げが予定されている。
見落としやすい上限──健康保険573万円/年・厚生年金150万円/月
標準賞与額には上限がある。賞与が大きい役員・幹部ほど効いてくるので、原資計算で見落とせない。
- 健康保険:年度(4月1日〜翌年3月31日)の累計で573万円が上限
- 厚生年金保険:1か月あたり150万円が上限
上限を超えた部分には保険料がかからない。たとえば年度内に賞与が累計573万円を超える従業員は、超過分の健康保険料が発生しない(出典:従業員に賞与を支給したときの手続き|日本年金機構)。同じ月に2回以上支給した場合は合算して上限を判定する。
賞与50万円を逆算する(数字例)
額面50万円の賞与を、神奈川支部・40歳未満(介護保険なし)の従業員に支給する場合で見てみる。標準賞与額は500,000円(千円未満なし)。
| 項目 | 全体 | 会社負担 | 本人控除 |
|---|---|---|---|
| 健康保険(9.92%) | 49,600 | 24,800 | 24,800 |
| 厚生年金(18.30%) | 91,500 | 45,750 | 45,750 |
| 子ども・子育て支援金(0.23%) | 1,150 | 575 | 575 |
| 社会保険料 合計 | 142,250 | 71,125 | 71,125 |
会社が用意すべき現金は、額面50万円+会社負担71,125円=約57.1万円。額面のおよそ1.14倍だ。従業員側も社会保険料71,125円に加えて賞与の源泉所得税が引かれるため、手取りは額面より相応に小さくなる。
これが40〜64歳の従業員なら、介護保険(1.62%=8,100円、会社負担4,050円)が加わり、会社負担は約75,175円。総支出は額面の約1.15倍になる。「賞与原資=額面の約1.15倍」を目安に持っておくと、資金繰りの見積もりがぶれない。
freee人事労務で賞与計算するときの実務上の注意
freee 人事労務では賞与計算と賞与支払届の作成まで完結できるが、前提として保険料率の設定が最新でなければ正しい金額にならない。2026年3月分からの料率改定や子ども・子育て支援金の扱いが事業所設定に反映されているかは、夏賞与の計算前に確認しておきたい(仕様は2026年5月時点。変更の可能性がある)。
- 事業所の健康保険料率が、加入している都道府県支部の令和8年度料率になっているか
- 介護保険の対象者(40〜64歳)が正しく判定されているか
- 子ども・子育て支援金分が料率に含まれているか(含まれ方は協会けんぽの令和8年度保険料額表と突き合わせて確認)
料率設定が古いまま計算すると、会社負担・本人控除の両方がずれる。SaaSの画面任せにせず、額面×料率の概算と一致するかを一度手計算で照合しておくと安心だ。
まとめ:原資は「総人件費」で考える
賞与は「額面いくら払うか」ではなく「会社がいくら現金を用意するか(総人件費)」で原資を組むのが、資金繰りを崩さないコツである。額面の約1.15倍を目安に、上限(健保573万円/年・厚年150万円/月)と料率設定の最新化を押さえれば、夏賞与の支給判断はぶれない。
次の一手として、賞与の社会保険料は「支給した月の翌月納付」になるため、納付月のキャッシュアウトもあわせてカレンダーに載せておくとよい。
この記事の要点
- 賞与には給与同様に社会保険料がかかり、会社と従業員が折半で負担する。
- 2026年度の主な料率は健康保険(神奈川9.92%・都道府県で異なる)、介護1.62%、厚生年金18.30%。子ども・子育て支援金0.23%は健保料率とは別建てで上乗せ。
- 標準賞与額は千円未満切り捨て。上限は健康保険が年度累計573万円、厚生年金が1か月150万円。
- 額面50万円なら会社負担は約7.1万円(40歳以上で約7.5万円)。会社の総支出は額面の約1.15倍が目安。
- freee人事労務は料率設定の最新化が前提。概算手計算との照合を推奨。
出典
- 賞与にかかる保険料はどのように計算するのですか。|日本年金機構
- 従業員に賞与を支給したときの手続き|日本年金機構
- 令和8年度 都道府県毎の保険料率|全国健康保険協会(協会けんぽ)
- 令和8年度 都道府県毎の保険料額表|全国健康保険協会(協会けんぽ)
- 子ども・子育て支援金制度について|こども家庭庁
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