銀行と「数字で対話」できる社長になる──ロカベン6指標で自社を健康診断する
融資の場で、借入額も金利も銀行任せになっていないか。経済産業省のローカルベンチマーク(ロカベン)は、銀行が見る6つの財務指標を社長自身が読むための無料ツールだ。本稿は月次試算表からロカベン6指標を作り、自社の返済力と借入余力を自分の言葉で語る道筋を示す。
なぜ社長は銀行との面談で受け身になるのか
融資の相談に行くたび、提示された条件にうなずくだけ。多くの経営者がこの状態に陥る。決算書は読めても、その数字が金融機関にどう評価されるかが見えていないからだ。
評価の物差しが見えないと、対話は一方通行になる。逆に銀行が見ている指標を社長が先回りして語れれば、面談は「審査を受ける場」から「条件を交渉する場」に変わる。その物差しを、国が無料で公開しているのがロカベンである。
ロカベンとは──国が用意した「企業の健康診断」ツール
ロカベンは、企業と金融機関・支援機関が同じ土俵で経営状態を語り合うための「共通言語」として設計された診断ツールだ(出典:ローカルベンチマーク|経済産業省)。
シートは3枚組で構成される。
- 6つの指標(財務分析)
- 商流・業務フロー(事業の流れ)
- 4つの視点(経営者/事業/企業を取り巻く環境・関係者/内部管理体制という非財務情報)
このうち財務の6指標は、銀行が融資審査で見る枠組みと大きく重なる。だからこそ、社長がこの6つを自分で計算できることに意味がある。
銀行が見る6指標をひとつずつ
6指標は、いずれも決算書・試算表の数字から計算できる。算式と「何を見ているか」を一覧にする。
| 指標 | 算式 | 何を見るか |
|---|---|---|
| 売上高増加率 | (当期売上高 ÷ 前期売上高 − 1)× 100 | 売上の持続性・成長力 |
| 営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 × 100 | 本業の収益性 |
| 労働生産性 | 営業利益 ÷ 従業員数 | 一人当たりの稼ぐ力 |
| EBITDA有利子負債倍率 | (有利子負債 − 現預金)÷(営業利益 + 減価償却費) | 返済力・財務の健全性(低いほど良い) |
| 営業運転資本回転期間 | (売上債権 + 棚卸資産 − 買入債務)÷(売上高 ÷ 12) | 資金が寝ている期間(月数。短いほど良い) |
| 自己資本比率 | 純資産 ÷ 総資産 × 100 | 財務の安全性(高いほど良い) |
ポイントは、収益性(営業利益率)だけでなく、返済力(EBITDA有利子負債倍率)・資金効率(運転資本回転期間)・安全性(自己資本比率)を多面的に見ている点だ。黒字でも資金が回らない会社、利益は薄いが借入が少なく安全な会社──その違いをこの6指標が映す。なお労働生産性は、ロカベンでは簡易に営業利益を分子に置く点に注意したい(一般的な「付加価値÷従業員数」とは異なる)。自己資本比率はロカベン自体に合格ラインの定めはないが、実務上は一般に40%程度が一つの目安とされる(業種で水準は異なる)。
債務償還年数とのつながり──返済力をどう語るか
6指標のうち、融資の現場で最も効くのが返済力を示す指標だ。④EBITDA有利子負債倍率は「手元資金を超える借入が、本業の稼ぐ力(営業利益+減価償却費)の何倍あるか」を見る。
これは、銀行が返済能力の物差しに使う「債務償還年数」と発想が近い。両者は、分子で現預金(手元資金)を引くか、分母の利益概念(ロカベンは営業利益、一般的な債務償還年数は経常利益を採ることが多い)や税金控除の有無が異なり、算式は別物だが、「借入が稼ぐ力の何年(何倍)分か」という見方は共通する。債務償還年数そのものの計算手順は別稿で詳しく扱った(参考:銀行が見る「債務償還年数」を自分で計算し追加融資の余力を月次で読む)。
面談では「自己資本比率は◯%、EBITDA有利子負債倍率は◯倍で、前期より改善しています」と数字で切り出せると、返済力の説明が一気に具体的になる。
月次試算表からロカベン指標を作る実務フロー
6指標は決算を待たずとも、月次試算表(クラウド会計の貸借対照表・損益計算書)から拾える。freee 会計を使っているなら、各項目の出どころは概ね次のとおりだ(仕様は2026年5月時点。画面構成は変わる可能性がある)。
- 売上高・営業利益:損益計算書(月次推移で年換算するとぶれにくい)
- 有利子負債:貸借対照表の短期借入金+長期借入金
- 現預金:貸借対照表の現金・預金
- 減価償却費:損益計算書の販管費(または製造原価)
- 売上債権・買入債務:受取手形+売掛金/支払手形+買掛金
- 棚卸資産・純資産・総資産:貸借対照表
注意したいのは、単月の数字は季節変動でぶれる点だ。売上高や営業利益は直近12か月で年換算すると、指標が安定する。SaaSの画面任せにせず、拾った数字を一度算式に当てはめ、前期と並べて推移で見るのがコツである。
まとめ:数字を語れる社長は融資条件が変わる
ロカベンの6指標は、銀行が見ている物差しを社長が先に手にするための道具だ。月次試算表から6指標を作り、前期と並べて推移で語れるようになれば、融資面談の主導権は確実にこちらへ寄る。
次の一手として、まずは直近2期分で6指標を計算し、どの指標が強み・弱みかを把握することから始めたい。弱い指標が分かれば、改善の打ち手と銀行への説明が同時に組み立てられる。
この記事の要点
- ロカベンは企業と金融機関が同じ土俵で語るための国の無料ツールで、シートは「6指標(財務)」「商流・業務フロー」「4つの視点(非財務)」の3枚組。
- 財務6指標は売上高増加率・営業利益率・労働生産性・EBITDA有利子負債倍率・営業運転資本回転期間・自己資本比率。
- 返済力を示すEBITDA有利子負債倍率は債務償還年数と発想が近く、融資面談で効く(算式は別物)。
- 6指標は月次試算表(freee会計のBS・PL)から拾え、年換算・前期比較で見るとぶれない。
- 数字を自分の言葉で語れる社長は、融資面談を「審査される場」から「交渉する場」に変えられる。
出典
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