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YANAI TAX OFFICE ・ CHIGASAKI / SHONAN

電子取引の事務処理規程──国税庁ひな形の埋め方と運用のつくり方

メールやECサイトで受け取った請求書・領収書を電子のまま保存するとき、中小事業者の多くは「事務処理規程を定める」という方法で改ざん防止措置を満たします。国税庁がひな形を公開しているので作成自体は難しくありませんが、そのまま提出すれば済む書類ではありません。要件は「定めること」ではなく「定め、運用し、備え付けること」だからです。

この記事は、4つある改ざん防止措置のうち事務処理規程を選ぶ方に向けた作成の手順です。なお規程は改ざん防止措置の1つで、これを作ってもデータ自体の保存・画面と書面への速やかな出力・検索機能(またはその緩和要件)への対応が不要になるわけではありません。どの措置を選ぶかの判定や検索要件の要否は電子帳簿保存法、中小企業がやることは3つで扱っています。

事務処理規程を選ぶのは、どのケースか

真実性の確保には4つの措置があり、いずれか1つを選べます(規則4条1項)。経路ごとに違う措置を使い分けることも認められています(問32)。

このうち③を使えるのは、訂正・削除の履歴が確認できる、または訂正・削除ができないシステムで、授受と保存の両方を行う場合です。単にEDIやクラウドサービスを使っているだけでは判定できず、そのシステムの訂正削除の仕様まで確認が要ります。メール等で受け取ったデータを後からクラウド会計や文書管理システムへ格納する運用は、格納先だけでは通常③に当たりません。①②のタイムスタンプは専用サービスの契約が要るため中小事業者では選びにくく、結果として④を選ぶことが多くなります。逆に③の要件を満たすシステムで完結している取引しかないなら規程は不要ですが(問34)、多くの会社は経路が混在するため、混在分をカバーする規程を1本持っておくことになります。

なお、この規程が対象にするのは**電子取引データの保存(法7条)**です。紙をスキャンして保存するスキャナ保存は別の制度で、必要な書類も別に定められています。

法人用と個人事業者用のどちらを使うか

国税庁は参考資料(各種規程等のサンプル)でWordのひな形を公開しています。2種類あり、中身はかなり違います。

ひな形分量構成
法人の例約1,240字全10条(総則3条+電子取引データの取扱い6条+附則)
個人事業者の例約430字条番号なし。目的/訂正削除の原則禁止/訂正削除を行う場合/施行日のみ

個人事業者用は法人用の3分の1で、管理責任者も運用体制も承認フローも置きません。「原則禁止」と「訂正削除する場合は申請書に8項目を記載して保存する」だけの構成です。

選び方は、まず事業形態を起点にします(法人は法人用、個人事業者は個人事業者用)。そのうえで実態に合わせて調整します。ひとり法人であれば第3条と第7条の責任者は兼務で構いませんが、承認する人と処理する人が同一になるので、承認の記録をどう残すかを決めておきます。従業員のいる個人事業者なら、逆に集約の担当者と承認手続を足したほうが実態に合います。規程に書いた体制と実際の業務が食い違っている状態が、いちばん避けたい形です。

記入するのはどこか

法人用の条立てと、記入・判断が必要な箇所は次のとおりです。

内容記入・判断すること
第1条 目的/第2条 適用範囲役員・従業員(契約社員、パートタイマー、派遣社員を含む)に適用事業者名
第3条 管理責任者役職・氏名
第4条 電子取引の範囲EDI/メール/クラウドサービス/ECサイト/インターネットバンキング等実際の経路を具体的に列挙(後述)
第5条 取引データの保存保存場所と保存年数保存場所と法定期間に合わせた年数(後述)
第6条 対象となるデータ見積依頼から支払情報まで8種類を例示第4条との整合
第7条 運用体制管理責任者・処理責任者役職・氏名(第3条と整合させる)
第8条 訂正削除の原則禁止/第9条 訂正削除を行う場合申請・承認・記録の手続手続を実行できる形にする
第10条 施行施行日

単なる穴埋めではないのは第4条・第5条と、第9条の手続を実際に回せるかどうかです。それ以外は自社の名称と氏名を入れれば済みます。

第4条の書き方──振込も従業員の立替も電子取引

ひな形の第4条には5つが例示され、「記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください」という注記が付いています。

  1. EDI取引
  2. 電子メールを利用した請求書等の授受
  3. クラウドサービスを利用した請求書等の授受
  4. ECサイトを利用した取引
  5. インターネットバンキングを利用した振込

5番目が見落とされがちです。一問一答(問10)も「インターネットバンキングを利用した振込等も、電子取引に該当します」と明言しています。ただし保存対象は限定されています。同じ問10は、保存すべきなのは「金融機関の窓口で振込等を行ったとした場合に受領する書面の記載事項(振込等を実施した取引年月日・金額・振込先名等)が記載されたデータ」であり、振込依頼を受け付けた旨のみが表示される画面は保存する必要がないとしています。さらに問11は、金融機関のオンライン上の通帳や入出金明細等による保存も可能としています。振込のたびに画面をPDF化する必要はありません(ただし金融機関の閲覧可能期間が保存期間より短いなら、期限前のダウンロードが要ります)。

もう1つ、従業員が立て替えたときの電子領収書も会社の電子取引です。問12はこう述べています。

従業員が支払先から電子データにより領収書を受領する行為についても、その行為が会社の行為として行われる場合には、会社としての電子取引に該当します。

集約して会社で保存・管理するのが望ましいものの、集約までの一定の間は従業員のパソコンやスマートフォンに保存しておき、会社として日付・金額・取引先の検索条件に紐づく形で保存状況を管理しておくことも認められる、とされています。この場合も規程に従った保存が必要で、税務調査で提出できる体制が要ります。

範囲を狭く書いて済ませることはできません。問33はひな形の第6条に注記としてこう記しています。

取引先等とデータでやりとりしたもののうち、取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項)が含まれるデータについては、全て要件に従ってデータのまま保存していただく必要があります

規程に書かなかった書類が保存対象から外れるわけではありません。 記載例としては、ひな形の5項目に自社の実態を足す形になります。

  • 電子メールを利用した請求書・領収書・注文書の授受(代表アドレス及び各担当者のアドレス)
  • 自社が発行し、メール又はクラウドサービスで送付する請求書
  • ○○(利用中のクラウド請求書サービス名)を利用した請求書等の授受
  • ECサイト(○○、○○)を利用した物品の購入
  • インターネットバンキング(○○銀行)を利用した振込
  • 従業員が会社の経費を立て替えた際に電子データで受領した領収書

自社が送ったデータ各担当者の個人メールは特に落ちやすいところです。PDFが添付されておらず、メール本文に金額や取引条件が書かれている場合は、その本文が取引情報にあたり得ます。

第5条の書き方──保存年数は自社で決めない

第5条は「保存サーバ内に△△年間保存する」という穴埋めです。保存期間は電子帳簿保存法が一律に定めるのではなく、そのデータに対応する法人税法・所得税法・消費税法等の保存期間によります(問17)。

  • 法人:帳簿書類は原則7年。欠損金が生じた事業年度は10年
  • 個人事業者:書類の種類等により5年または7年
  • 消費税の仕入税額控除に必要な請求書等、適格請求書の写し等:7年

複数の期間が絡むので、一律の年数を書くなら最長の保存義務を満たす年数にします。ただし全部を10年にすればストレージ費用も退職者アカウントの管理負担も増えるので、「法令によりこれより長い保存期間が必要となるデータについては、その期間が満了するまで保存する」というただし書きを置く書き方もあります。起算点は取引日ではないので、「取引日から7年」と読み替えないでください。

保存場所は社内サーバでもクラウドストレージでも構いません。納税地の端末から画面と書面に速やかに出力できる状態であれば、海外のサーバでも差し支えないとされています。第5条には、実際に保存している場所の名称を書きます。

責任者と訂正削除の手続をどう設計するか

第8条で訂正削除を原則禁止としたうえで、第9条が例外の手続を定めています。法人用ひな形をそのまま採用する場合、流れは次のとおりです。

  1. 処理責任者が「取引情報訂正・削除申請書」に8項目(申請日/取引伝票番号/取引件名/取引先名/訂正・削除日付/訂正・削除内容/訂正・削除理由/処理担当者名)を記載して管理責任者へ提出する
  2. 管理責任者は、正当な理由があると認める場合のみ承認する
  3. 管理責任者が処理責任者に訂正・削除を指示する
  4. 処理責任者は、対象データに訂正・削除履歴がある旨の情報を付し、「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成して管理責任者に提出する
  5. 申請書と完了報告書は、対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する

つまり法人用を採るなら書類は2種類あり、元データと同じ年数だけ保管します。ただしこれは法人用サンプルを採用した場合の手続で、すべての事業者に一律に求められているわけではありません(個人事業者用は8項目の申請書を保存する構成です)。法令が求める内容は通達7-7に示されており、自社の規程で防止する場合は①訂正削除の原則禁止 ②訂正削除する場合の事務処理手続(訂正削除日、訂正削除理由、訂正削除内容、処理担当者の氏名の記録及び保存)③データ管理責任者及び処理責任者の明確化、の3点です。②の記録項目は4つで、ひな形の8項目はこれを使いやすい形に具体化したものです。規程に定めた手続と実際の運用が一致していることのほうが、様式の厚さより重要です。

契約を使う書き方もある

通達7-7は、自社内の申請手続ではなく契約によって防止する形も例示しています。

  • ⑵取引相手との契約によって防止する場合:①取引相手とデータ訂正等の防止に関する条項を含む契約を行うこと ②事前に上記契約を行うこと ③電子取引の種類を問わないこと

また問34は、共通の保存サービスを利用する取引について、サービス提供者との契約を利用する方法も4号として認めています。ただしこの場合も、各利用者が定める規程に次のような条項を置くことが想定されています。

電子取引の種類を問わず、電子取引を行う場合には、事前に、サービス提供相手とデータの訂正等を行わないことに関する具体的な条項を含んだ契約を締結すること。

つまり契約方式でも規程そのものは要ります。サービスの利用規約があるだけで自社の規程が不要になるわけではありません。取引相手が多数ある中小事業者にとって、全取引先と事前に条項を結ぶのは現実的でないため、自社の規程を1本置くほうが早いというのが結論になりやすいところです。

作ったあとにやること

規程の運用は、訂正削除が起きたときだけの話ではありません。次の状態をつくって初めて「運用している」といえます。

  1. 電子取引の経路と担当者を一覧にする(代表メール、各担当者のメール、EC、電子契約、カード会社、クラウド請求書、インターネットバンキング、従業員の立替)
  2. 各経路から保存先へ集約する担当者と期限を決める
  3. 保存期間を通じて取り出せる状態を保つ(ECサイトの閲覧期限、サービス解約、担当者の退職でデータが消えないようにする)
  4. 訂正削除のときは規程どおりに記録と承認を行う
  5. 経路が増減したら規程を見直す(新しいサービスを使い始めたときが最も漏れます)

そして、従業員のいる事業者では周知が要ります。問33は「規程に沿った運用を行うためには、社内において、電子取引情報を扱う従業員やそのマネジメントを行う管理者を対象に規程の内容を周知することが重要です」としています。周知それ自体が独立した要件として列挙されているわけではありませんが、規程と実際の処理が食い違わないために必要な実務対応です。

同じ問33には、実務上ありがたい記述が続きます。

業務ソフトに内蔵されたワークフロー機能により、そうした運用を確保することとしても差し支えありません。

紙の申請書を回さなくても、会計ソフトや文書管理システムのワークフローで承認と履歴が残る形にできるなら、それで差し支えないとされています。証憑の保存と記帳を同じ場所に集める設計は月次決算を数営業日で締める運用とも相性がよく、運用をシステム側に寄せられるならそのほうが続きます。

この記事の要点

  • 事務処理規程は改ざん防止措置の1つ。これを作っても、データの保存・出力・検索要件への対応が不要になるわけではない
  • ひな形は法人用が全10条・約1,240字、個人事業者用は約430字で条番号もない。事業形態を起点に選び、ひとり法人や従業員のいる個人事業者は実態に合わせて調整する
  • 判断が要るのは第4条(電子取引の範囲)と第5条(保存年数)。第4条にはインターネットバンキングの振込従業員が立て替えた際の電子領収書も入る。規程に書かなかった書類が保存対象から外れるわけではない(問33)
  • 振込は取引年月日・金額・振込先名等が記録されたデータが対象で、受付画面のみの表示は保存不要。オンライン通帳や入出金明細による保存も可(問10・問11)
  • 保存年数は法人税法・所得税法・消費税法等の期間による(法人は原則7年・欠損金が生じた事業年度は10年、個人は5年または7年)。起算点は取引日ではない
  • 法人用の申請書+完了報告書は「法人用サンプルを採用した場合」の手続。法令が求めるのは通達7-7の3点で、記録項目は4つ。規程と実際の運用が一致していることが重要
  • 契約による方式(通達7-7⑵・問34)でも規程そのものは必要。運用は業務ソフトのワークフロー機能で確保しても差し支えない(問33)

出典


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