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事前確定届出給与、役員の一部に支給しない場合 支給した人の分は損金にできるか

複数の役員に事前確定届出給与(役員賞与)を届け出たものの、一部の役員には支給しない――。このとき届出どおり支給した役員の分まで損金にできなくなるのか、と不安になる経営者は少なくありません。結論は「損金になるかは役員ごとに判定する」です。ただし「支給しない」の実務には落とし穴があります。

事前確定届出給与とは──「届出どおり」がなぜ絶対か

事前確定届出給与とは、役員給与を損金(税務上の経費)にするために、支給の時期と金額をあらかじめ税務署に届け出ておく制度です。一般に役員賞与など、支給の時期と金額をあらかじめ定め、期限内に届け出て、その定めどおりに支給する役員給与が対象になります(定期同額給与・業績連動給与を除く/法人税法34条1項2号、法人税法施行令69条)。届出がなければ、こうした役員給与は原則として損金になりません。

ポイントは、届け出た「所定の時期に、確定した額」を、そのとおり支給して初めて損金になる点です。届出額と1円でも違う、支給日が1日でもずれる――こうした「定めどおりでない」支給は、原則としてその役員分が損金不算入になります。しかも差額でなく、実際に支給した金額の全額が損金になりません(法人税基本通達9-2-14)。

なお、届け出た定めを後から変えられるのは、臨時改定事由や業績悪化改定事由など限られた場合だけで、変更の届出にも期限があります(タックスアンサーNo.5211)。任意に減額・ゼロにできるわけではありません。役員報酬そのものの決め方は関連記事役員報酬の決め方で解説しています。

結論:損金になるかは「役員ごと」に判定される

2名の役員について届け出て、片方に支給しなかった場合でも、届出どおり支給した役員の分は損金にできます。他の役員に支給しなかったことは、支給した役員分の損金性に影響しません。

国税庁の質疑応答事例でも、届出書を提出した法人が特定の役員にだけ届出額と異なる支給をした場合、その取扱いは役員ごと(各人別)に判定すると示されています(質疑応答事例13)。判定の単位は会社全体でなく役員一人ひとりです。

よくある誤解が「1人でも届出どおりに払わないと、全員分が損金否認になる」というもの。これは誤りです。届出どおり支給された役員の分は、他の役員がどうであれ損金算入できます。

「支給しない」には3つのパターンがある

「支給しない」といっても実務では次の3通りがあり、税務上の扱いが大きく変わります。

パターン内容その役員分の扱い他の役員への影響
①完全不支給(限定つき)支給予定が1回だけで、支給日前に適法な手続で支給義務が消滅し、実際の支給も未払計上もない損金に計上する額がそもそも無い原則なし
②一部・減額支給届出額と異なる額を支給差額でなく実際に支給した全額が損金不算入なし(その役員だけ)
③未払計上して不払い未払金を立てたが支給日に払わない損金不算入になり得るうえ、源泉・会計の論点も残るなし(その役員だけ)

①には注意が要ります。「完全に払わなければ常に問題なし」ではありません。安全といえるのは、その役員の支給予定が1回だけで、支給日より前に適法な手続で支給義務が消滅し、実際の支給も未払計上もない場合です。このとき、その役員について損金算入する金額自体が存在しないため、届出どおり支給した他の役員には原則として影響しません。

一方、同じ役員に年2回など複数回を届け出て、そのうち1回だけを完全に支給しない場合は、①のように無問題とはなりません。未払債務があるかどうかとは別に、法人税上は職務執行期間(定時株主総会から次の総会まで)を一つの単位として、定めどおり支給されたかを判定します。そのため1回でも定めどおりに支給しないと、同じ職務執行期間に実際に支給した他の回の給与まで損金不算入になり得ます(質疑応答事例16)。否認されるのはあくまで実際に支給した金額で、0円だった回に架空の届出額まで否認されるわけではありません。

ただし、複数回の支給が事業年度をまたぐ場合には例外があります。前事業年度分は届出どおり支給し、翌事業年度分だけが定めと異なるときは、前事業年度の所得まで遡らず、翌事業年度に実際に支給した給与の額だけを損金不算入として差し支えないとされています(質疑応答事例16のただし書き)。

「業績が悪ければ0円にできる」と安易に考えるのも危険です。通達が認める「全額支給または全額不支給」は、当初からその条件を定めに組み込み、その定めに従った場合の話です(法人税基本通達9-2-15の5)。100万円と届け出た後に任意で0円へ変える一般的な根拠ではありません。

最大の地雷は②です。「予算が厳しいから半額だけ」と減額すると、減らした差額ではなく実際に払った全額が損金にならず、法人税の対象になります。加えて役員個人には給与課税が残り、法人・個人の双方で不利になります。

「不支給の書面を作れば安全」ではない

「支給日前に不支給決議や辞退書を作れば税務上すべて解決する」というセーフハーバー(安全地帯)はありません。

すでに個人別の報酬債権が確定している場合、後からの辞退は「当初から債権がなかった」ことと同じではありません。役員が未払賞与等の受領を辞退したときに源泉徴収をしなくて差し支えないとされるのは、特別清算・破産・再生手続や、事業不振による会社整理・債権者集会の協議決定などで債務が切り捨てられ、一般債権者の損失を軽減するため役員がやむを得ず辞退した場合に限られます(所得税基本通達181〜223共-3)。通常の資金繰り都合では「辞退書があるから課税なし」とはなりません。さらに、いったん発生した未払の給与・賞与を会社が債務免除された場合は、原則としてその債務免除の時に支払があったものとして源泉徴収が必要です(会社が債務超過の状態が相当期間続き支払不能と認められる場合などの例外を除く/所得税基本通達181〜223共-2)。「そもそも報酬債権が発生していない場合」と「発生済みの債権を後から辞退・免除する場合」は分けて考える必要があります。

さらに、未払の役員賞与は、支払が確定した日から1年を経過した日に支払があったものとみなされ、源泉徴収の対象になります(タックスアンサーNo.2526)。③の論点は、(a)事前確定届出給与に該当しないことによる法人税の損金不算入、(b)未払債務が本当に存在するかという会計処理、(c)支払確定日から1年経過時のみなし支払による源泉徴収――の3層に分かれます。「未払金を消せば解決」ではありません。

freeeの処理は「支給義務」を確認してから決める

会計処理は、税務で有利な結果を作るために仕訳を省くものではなく、法的な債務の有無に従って決めます。個人別の支給額が確定し、役員に請求権が発生しているなら、未払債務の計上が必要な場合があります。「支給しないつもりだから帳簿に何も残さない」という処理は安易に勧められません。

逆に、当初の定めの解除条件成就などで報酬債権がそもそも発生していない場合には、未払計上をしない処理があり得ます。ただし、いったん発生した債権を後から辞退・免除する場合は、会計上は債務が消えても源泉所得税では原則として支払があったものと扱われる点に注意します(所得税基本通達181〜223共-2)。freee会計での記帳は、この支給義務の発生・存続を確認してから決めるのが順序です。決議の内容、債権の確定・消滅の時期、源泉の取扱いを税理士に確認したうえで仕訳を固めます。freeeの画面手順は変わり得ますが、「帳簿は法的な債務に合わせる」考え方は共通です。

不支給を決める前に確認したいこと

一部の役員に支給しないと決める前に、次の点を整理し、税理士に確認しておくと事故を防げます。

  1. 当初の決議の支給条件:全額支給/全額不支給の条件をあらかじめ定めていたか。
  2. 個人別の報酬債権が確定していないか:確定済みなら辞退だけでは課税関係は解消しません。
  3. 不支給を決定できる会社法上の機関:株主総会・取締役会など適切な手続で決議し、議事録に残す。
  4. 臨時改定・業績悪化改定の事由に当たるか:定めの変更には事由と届出期限の要件があります(No.5211)。
  5. 源泉所得税・社会保険・会計処理への影響:未払でも1年経過でみなし支払の源泉が生じ得ます(No.2526)。役員賞与を支給すれば社会保険の会社負担も発生します。賞与にかかる社会保険負担は関連記事夏の賞与、社会保険の会社負担も参考になります。

この記事の要点

  • 事前確定届出給与が損金になるかは役員ごと(各人別)に判定される。2名届け出て1名に支給しなくても、届出どおり支給した役員分は損金算入できる。
  • 「1人でも払わないと全員否認」は誤り。ただし同一役員への複数回支給は、1回でも定めどおりでないと同じ職務執行期間の他の回まで損金不算入になり得る。
  • 一部・減額支給は差額でなく実際に支給した全額が損金不算入。否認対象は実際の支給額で、0円だった回の届出額まで否認されるわけではない。
  • 辞退書や不支給決議だけで課税関係は解消しない。辞退で源泉徴収を省けるのは破産・民事再生等の特殊事情に限られ、発生済み債権の免除は原則その時点で支払があったものとして源泉徴収が要る。役員の未払賞与は1年経過でもみなし支払の源泉が生じる。
  • freeeの記帳は税務結果を作るためでなく支給義務の有無に合わせて決める。判断は事前に税理士へ。

出典


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