赤字・債務超過から立て直す ― 経営改善計画を税理士・金融機関とどう進めるか
赤字や債務超過が続き「どこから手をつければいいか分からない」中小法人の経営者向けに、立て直しの全体像を整理します。経営改善計画の作り方、公的支援制度の入口、金融機関との進め方を、公認会計士・税理士が実務目線で地図にする入口記事です。
赤字・債務超過は「どこから手をつけるか」で迷う
決算が赤字続きで、負債が資産を上回る「債務超過」に陥る。この状態に立つと、多くの経営者は打ち手の順番が見えなくなります。銀行への相談が先か、コスト削減が先か、それとも計画づくりが先か――やるべきことが多すぎて、かえって動けなくなるのです。
このサイトではこれまで、自社の数字を「銀行の目線」で診る方法を連作でお伝えしてきました。借入をあと何年で返せるかを表す債務償還年数、銀行が見る6つの財務指標をまとめたロカベン6指標、事業を回すのに必要な運転資金。本稿は、その「診る」の先にある「立て直す」を扱います。
立て直しの全体像 ― 計画・支援・金融機関の三者で進む
再建は、経営者ひとりで抱え込む作業ではありません。実務上は次の三者が関わりながら進みます。
- 経営改善計画:どう黒字化し、どう返済していくかを数字で描いた設計図。立て直しの中心になります。
- 公的支援:計画づくりの費用を国が補助する制度。専門家の伴走を後押しします。
- 金融機関:計画の実現可能性を見て、返済条件の変更(リスケ)や新規融資を判断する相手。
大切なのは順番です。資金繰りが差し迫っているときは、計画の完成を待たずに、早い段階で金融機関や専門家へ相談してください。そのうえで、当面の資金繰りを確保しながら、現状分析と計画づくりを並行して進めるのが一般的です。具体的な順序は、会社の状況や金融機関によって異なります。以下、それぞれの入口を見ていきます。
公的支援の入口は二本柱 ― 早期と本格
計画づくりを後押しする公的支援には、大きく二つの制度があります。どちらを使うかは、金融機関の支援(返済条件の変更など)を伴うかどうかで分かれます。
| 制度(通称) | 位置づけ | 金融支援(返済条件変更など) | モニタリング |
|---|---|---|---|
| バリューアップ支援事業(Vアップ事業) | 予防・早期段階 | 必須ではない(ただし金融機関への事前相談・計画の提出が必要) | 原則3年・年2回以上 |
| 405事業 | 本格的な経営改善・事業再生 | 伴う(取引金融機関の同意を得る/条件変更・借換など) | 原則3年・年2回以上 |
バリューアップ支援事業は、2025年4月に旧「ポストコロナ持続的発展計画事業(ポスコロ事業)」から通称が変わった制度です。資金繰りや採算管理の基本的な計画を早めに作り、金融機関へ提出するところまでを支援します。まだ深刻な資金繰り難には至っていないが、先手を打ちたいという段階に向いています。
405事業は名称が継続している制度で、返済条件の変更や借換など、既存の借入の見直しを含む金融機関対応を伴う、より本格的な再建向けです(案件によっては新規融資の検討が並行することもあります)。おおむね3年間のモニタリングがつきます。
両事業とも補助率は3分の2です。補助上限の金額やモニタリングの回数などの要件は年度ごとに改訂され、情報源によっても記載が分かれます。金額・要件は申請時点の中小企業庁・中小企業活性化協議会の最新の手引きで必ず確認してください。申請の窓口は、各都道府県に置かれた中小企業活性化協議会です。これは2022年4月に旧「中小企業再生支援協議会」などが統合・改組された組織で、収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援の3つの機能を担っています。
担い手は認定支援機関 ― 税理士・会計士が計画策定に伴走する
これらの計画を作る担い手として国が位置づけているのが、**認定経営革新等支援機関(認定支援機関)**です。税理士や公認会計士が中心的な担い手で、上記の二事業とも、認定支援機関の支援を受けて計画を策定することが補助の要件になっています。
当事務所では、月次の数字の整備、現状分析、経営改善に向けた数値計画の検討を支援します。公的支援制度(バリューアップ支援事業・405事業)の利用を希望される場合は、認定経営革新等支援機関との連携を含め、必要な支援体制をご案内します。大切なのは「誰が作るか」より「その計画に実現可能性があるか」です。金融機関が見ているのは、まさにそこです。
金融機関は数値計画のどこを見るか
金融機関が計画を評価するとき、繰り返し確認するのは次のような点です。
- 債務償還年数:有利子負債を年間のキャッシュフローで割った年数。10年以内が一つの目安とされます。
- 実質的な債務超過とその解消年数:帳簿だけでなく実態ベースで見て、債務超過が何年で解消する計画か。
- 計画の蓋然性とモニタリング:数字の前提が現実的か、進捗を追える仕組みがあるか。
これらは、先にご紹介した債務償還年数の記事で扱った指標そのものです。日ごろから月次で自社の数字を「銀行目線」で読めていれば、計画の実現可能性を語る言葉を自前で持てます。逆に、いきなり計画を作ろうとしても、土台となる月次の数字が整っていなければ説得力は出ません。
金融機関における計画評価の考え方 ― 実抜計画・合実計画
計画の実現可能性については、金融機関の側にも一定の物差しがあります。専門用語ですが、噛み砕くとこういうことです。
金融機関の資産査定では、計画の実現可能性や抜本性が、その借入を「貸出条件緩和債権(実質的に条件を甘くした不良債権)」とみなすかどうかや、取引先の債務者区分を判断する材料になります。代表的な概念として実抜計画(実現可能性の高い抜本的な経営再建計画)と合実計画(合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画)がありますが、両者は適用される判定場面や要件が異なります(金融庁の貸出条件緩和債権関係Q&Aによる)。
一定の要件を満たす計画があれば、リスケを行った債権が直ちに貸出条件緩和債権に該当するとは限りません。ただし、判定するのはあくまで各金融機関で、その後に計画の実現可能性が失われれば取扱いが変わることもあります。
大切なのは、これらの計画が「計画書があれば足りる」ものではないという点です。関係する金融機関の同意、追加支援に頼らずに済む水準での支援額の確定、売上や費用を厳しめに見積もった現実的な数値――こうした条件を備えて初めて「実現可能性が高い」と評価されます。細かな要件は専門家と詰める前提で、まずは「筋の通った計画は金融機関の評価上も意味を持つ」と押さえてください。
リスケを申し込むときの一般的な流れ
返済がいよいよ厳しいときは、金融機関に返済条件の変更(リスケジュール)を申し込みます。一般的には次のように進みますが、金融機関や案件によって運用は異なります。
- 取引金融機関へ返済条件の変更を申し込む。
- 複数行と取引がある場合は、いわゆるバンクミーティングで各行の足並みをそろえる。
- 暫定的なリスケののち経営改善計画の提出を求められる。ただし、計画案を示しながら協議する、協議と計画策定を並行するなど、順序は案件により異なる。
ここで一点、線引きが必要です。返済条件の交渉そのものや、私的整理・法的整理といった手続きは、弁護士等の領域です。税理士・会計士が担うのは、あくまで数値計画の策定や財務面の整理にとどまります。必要な段階では、弁護士等の専門家に相談することを前提にお考えください。
税務は別稿で ― 債務免除益と期限切れ欠損金
再建が私的整理や民事再生などの局面に進むと、税務の論点が加わります。借入の一部を免除してもらうと「債務免除益」という利益が計上されます。一定の法的整理や、資産評定など所定の要件を満たす私的整理では、法人税法59条により期限切れの欠損金を利用できる場合がありますが、通常の債務免除やリスケに一律で使えるものではありません。ここは影響が大きく、法務・税務・金融機関との調整を伴う専門領域です。本稿では存在をお伝えするにとどめ、税務の詳細は別稿で扱います。
まとめ ― まずは自社の数字を月次で診るところから
赤字・債務超過からの立て直しは、思いつきの節約ではなく、数字に裏づけられた計画から始まります。そして、その計画に説得力を持たせる土台は、日ごろの月次の数字です。
いきなり大がかりな計画に取りかかる前に、まずは自社の数字を債務償還年数やロカベン6指標で「銀行目線」に翻訳してみることをおすすめします。現状が数字で見えれば、次の一手の順番も自然と見えてきます。
この記事の要点
- 赤字・債務超過からの再建は、「経営改善計画・公的支援・金融機関」の三者で進むと捉えると迷いにくい。
- 公的支援は二本柱。早期段階のバリューアップ支援事業(金融支援は必須でないが事前相談・計画提出は必要)と、本格再建の405事業(金融支援が前提)で、どちらも補助率3分の2。上限額は年度改訂のため最新の手引きで要確認。
- 申請窓口は各都道府県の中小企業活性化協議会、計画策定の担い手は認定経営革新等支援機関(税理士・会計士が中心)。
- 金融機関は債務償還年数・実質債務超過の解消年数・計画の蓋然性を見る。実抜計画・合実計画は判定場面が異なる概念で、要件(関係金融機関の同意・支援額の確定・現実的で厳しい数値)を満たせば、リスケした債権が直ちに貸出条件緩和債権に該当するとは限らない(判定は各金融機関)。
- リスケ交渉や法的整理は弁護士等の領域。税務(債務免除益と期限切れ欠損金)は別稿で扱う。
出典
自社の数字を「銀行の目線」で診るところから始めたい、とお考えですか? 矢内隆一税理士事務所(湘南・茅ヶ崎/全国オンライン対応)では、公認会計士・税理士でfreee認定アドバイザー4★の代表が、月次の数字づくりから経営改善に向けた数値計画の検討まで伴走します。 サービス内容を見る → / お問い合わせ →