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YANAI TAX OFFICE ・ CHIGASAKI / SHONAN

建物だけを法人に移す 地代の決め方と無償返還の届出書

第2回(サブリース・管理料方式で法人にいくら落とせるか)のチェックリスト4番は「移すなら土地込みか建物のみかを決め、建物のみなら無償返還の届出書の要否を確認する」でした。第3回(譲渡価額の下限と上限、時価の決め方)で扱った土地建物の按分は、土地を移さないならそもそも起きません。代わりに出てくるのが地代です。

土地を個人に残して建物だけを移すと、入場料は半分ほどに下がります。代わりに、法人が個人の土地を使う関係が生まれ、地代をいくらにするかという設計変数が増えます。本稿では、何に課税されるのか、権利金の認定を避ける2つの方法、届出の手続、そして地代の水準を扱います。

1. 建物だけを移すと、入場料はどれだけ下がるか

第1回(「物件を法人に移すか」が最初の論点になる理由)と同じモデルケースで比べます。

  • 時価:土地5,000万円・建物3,000万円
  • 取得費:土地4,000万円・建物は減価償却後の簿価2,000万円
  • 固定資産税評価額:土地3,500万円・建物1,800万円
  • 相続税評価額(路線価ベース):土地4,000万円(路線価は地価公示価格等の80%程度を目途に定められるので、時価の8割として置いた仮定値。取得費の4,000万円とはたまたま同額ですが、別の数字です)
  • 所有期間10年、個人は消費税の免税事業者
税目土地込みで移す建物だけ移す
譲渡所得税(個人・長期20.315%)譲渡益2,000万円で約406万円譲渡益1,000万円で約203万円
登録免許税土地約53万円+建物36万円建物36万円
不動産取得税土地約53万円+建物54万円建物54万円
司法書士報酬等10〜20万円程度10〜20万円程度
合計約620万円前後約310万円前後

(登録免許税は土地1.5%・建物2.0%、不動産取得税は評価額の3%で土地は課税標準2分の1。いずれも第1回のとおり。建物の消費税は、個人が免税事業者なのでどちらも0円です。)

差は約310万円。 消えているのは土地の譲渡益1,000万円に対応する税と、土地の登録免許税・不動産取得税です。抵当権設定登記の登録免許税(債権額の0.4%)と印紙税も、借入額が小さくなるぶん下がります。抵当権付きなら金融機関の承諾か借換えが要る点は、どちらも同じです。

なお、建物の譲渡価額そのものには第3回の下限と上限がそのまま当てはまります。建物だけを譲渡する契約なら、時価の2分の1の判定も建物単独で行います(所得税基本通達59-4は契約ごとの対価合計で判定するので、譲渡する資産が建物だけなら分母も建物だけです)。ここでは時価3,000万円で移す前提です。

2. 権利金の認定を受けるのは、個人ではなく法人のほう

法人が個人の土地の上に建物を持つ関係は、税務上は借地権の設定として扱われます。権利金を授受する慣行がある地域で権利金も相当の地代も払わずに借りると、法人は借地権に相当する経済的価値を無償で譲り受けたことになります。法人税法22条2項は「無償による資産の譲受け」という取引に係る収益の額を益金に算入すると定めており、この受贈益が法人の所得に乗ります。

ここで注意したいのが、実務書でよく引かれる法人税基本通達13-1-3の射程です。原文は「法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合において、これにより収受する地代の額が…相当の地代の額に満たないときは…借地人等に対して贈与したものとする」で、地主が法人・借地人が個人(または他社)というケースの定めです。本稿は土地所有者が個人・借地人が法人という、ちょうど逆向きの設定です。

つまり、建物だけを移す設計で権利金の認定を受けるのは、個人ではなくご自身の法人です。(地代を受け取れば、個人には不動産所得として課税されます。)個人の側については、所得税法59条1項のみなし譲渡に借地権等の設定は含まれないとされています(所得税基本通達59-5)。「自分に認定課税が来る」と身構えると、守る対象を取り違えます。

これを避ける方法は2つあります。相当の地代を払うか、無償返還の届出を出すかです。

3. 方法1 相当の地代を払う

相当の地代とは、権利金に代えて支払う高めの地代で、水準は更地価額の年6%程度です。正確には法人税基本通達13-1-2の本文が「おおむね年8%程度」で、平成元年3月30日直法2-2が**「当分の間」年6%と読み替える**と定めています。本文には反映されていないので、通達を自分で引くと8%が出てきて混乱します(タックスアンサーNo.5732も年6%)。

「土地の更地価額」は通常の取引価額が原則ですが、課税上弊害がない限り、公示価格等から合理的に算定した価額や、財産評価基本通達第2章の例により計算した価額(いわゆる相続税評価額)によることもできるとされ、直法2-2はさらにその過去3年間の平均額を認めています(同13-1-2の(注)1、タックスアンサーNo.5732)。モデルの土地なら、時価5,000万円を使えば年300万円(月25万円)、相続税評価額4,000万円を使えば年240万円(月20万円)。基礎の置き方で2割違います。

なお、相当の地代は「これを超えて払ってはいけない上限」ではありません。 権利金の認定を避ける水準というだけです。ただ、法人に利益を残すために法人化するのに年240万〜300万円を個人へ払い戻すのでは目的と逆を向きます。だから実務はもう一方を選びます。

4. 方法2 無償返還の届出

無償返還の届出は、将来その土地を無償で返還すると約束したことを税務署に届け出る手続です。これを出しておけば、相当の地代に満たない地代でも権利金の認定は行われません(法人税基本通達13-1-7。同通達の後段にある、差額を借地人に贈与したものとする扱いは、地主が法人の場合の話です)。押さえる点は4つです。

  1. 先に契約書です。 賃貸借契約書に「将来借地人がその土地を無償で返還する」旨の定めを置くことが前提で、定めのないまま届出だけ出しても効きません。
  2. 借地人との連名の書面で、遅滞なく提出します。
  3. 提出先は「土地所有者の納税地」の所轄税務署長です(国税庁 手続C1-63)。建物だけを移す設計では土地所有者は個人ですから、法人の税務署ではなく個人の税務署。ここは実際に間違えやすく、国税庁も「土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます」と明記しています。
  4. **添付書類は、契約書の写しと「土地の価額の計算の明細その他参考となる事項を記載した書類」**です(同C1-63)。第3回で作った時価の根拠資料が、ここでもう一度使えます。

「遅滞なく」に具体的な日付はありません。通達の明文ではありませんが、契約の締結後すみやかに、遅くとも法人のその事業年度の申告期限までに出しておくのが安全側です。

5. 届出を出すと土地は2割引。ただし引いた分は株式へ

届出の実利は、権利金の認定を避けることだけではありません。相続のとき、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価されます(相当地代通達8)。借地権の価額は零として取り扱われます(同5)。土地の自用地としての価額が4,000万円なら、貸宅地は3,200万円です。

ただし、引いた20%は消えません。 被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸し付けている場合には昭和43年10月28日直資3-22の適用があるとされ(相当地代通達8のなお書)、同通達は借地権の価額を「同社の純資産価額に算入する」と定めています。理由も原文にあり、「土地の評価額が個人と法人を通じて100%顕現することが、課税の公平上適当と考えられるから」です。

つまり土地から引かれた800万円は、その同族会社の株式の評価に移ります(純資産価額方式で評価する場合。評価差額に対する法人税額等相当額の控除があるため、そのまま同額が乗るわけではありません。財産評価基本通達186-2)。家族全体で見れば、土地だけを見て減ったと考えるのは早計です。 効いてくるのは、土地は配偶者に・株式は子に、というように承継する人を分ける場面です。

6. 地代は公租公課相当額を超える水準に置く

その80%評価は、地代の水準しだいで消えます。授受する額が土地の公租公課に相当する金額以下にとどまると、民法593条の使用貸借と扱われるからです(使用貸借の範囲についての国税庁の説明として、昭和48年11月1日直資2-189の1。同通達は個人間の貸借を前提としたものですが、線引きの考え方は共通です)。そして使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地は、自用地としての価額によって評価するとされています(相当地代通達8の(注))。

では公租公課はいくらか。モデルの土地(固定資産税評価額3,500万円)がすべて小規模住宅用地に当たるとすれば、次のとおりです。

  • 固定資産税:課税標準は価格の6分の1(地方税法349条の3の2第2項)、標準税率1.4%(同法350条1項)で年約8.2万円
  • 都市計画税:課税標準は価格の3分の1(同法702条の3第2項)、税率0.3%で年約3.5万円

合計は年約11.7万円で、下限の目安は年12万円ほどです。ただし都市計画税の0.3%は制限税率(上限)で(同法702条の4)、市街化区域内の土地・家屋に課すのが原則ですから(同法702条1項)、課さない市町村もあります。その場合の下限は年8万円ほど。実額はご自身の課税明細書で確認してください。

帯にすると次のとおりです。

年間の地代貸借の扱い相続時の貸宅地の評価
0円使用貸借自用地としての価額
実額の公租公課以下(モデルで年12万円ほど。都市計画税がない地域なら年8万円ほど)使用貸借自用地としての価額
実額の公租公課を超える水準賃貸借。無償返還の届出で権利金の認定なし自用地としての価額の80%
相当の地代(モデルで年240万〜300万円)賃貸借。届出がなくても権利金の認定なし自用地としての価額の80%(権利金を収受していない場合。相当地代通達6の(1))。同族会社への貸付けなら、引いた20%が株式に移る点は届出の場合と同じ(同6の(注))

どこに置くかは法人の資金繰りと個人の不動産所得のバランスで決めますが、公租公課相当額以下にとどまった時点で80%評価は使えなくなるので、評価替えで公租公課が動いても割り込まない程度の余裕は要ります。

失うのは80%評価だけではありません。 土地が個人に残る利点として、相続のとき貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例(200㎡まで50%減額。租税特別措置法69条の4、タックスアンサーNo.4124)が使える余地があります。ただしこの特例は「相当の対価を得て継続的に」貸し付けていることが前提で、使用貸借では使えません。この200㎡は、先ほどの固定資産税の小規模住宅用地(200㎡×住居の数)とは別物です。 住戸数にかかわらず200㎡が上限で、自宅で特定居住用宅地等を使えば枠はさらに削られます。自用地価額4,000万円なら、敷地が200㎡以内であれば減額は貸宅地3,200万円の50%=最大1,600万円で、80%評価による800万円を上回ります。ただし敷地が広いほど頭打ちになり、およそ400㎡を超えると80%評価のほうが大きくなります。どちらが効くかは敷地面積と遺産の構成しだいですから、公租公課をわずかに上回る水準で足りるとは考えず、両方を試算したうえで地代を決めてください。

7. 土地込みと建物のみ、どちらを選ぶか

入場料の差は第1節のとおり約310万円。そのほかの違いは次のとおりです。

土地込みで移す建物だけ移す
法人に移る所得賃料の全額賃料から地代を差し引いた額
個人に残る所得なし地代(不動産所得。事業的規模の判定に注意)
新たに要る手当て土地建物の按分の根拠賃貸借契約書と無償返還の届出
相続時の土地売却代金(現金や法人への貸付金)に置き換わる貸宅地として自用地価額の80%。引いた20%は株式へ。加えて貸付事業用宅地等の特例(敷地のうち200㎡まで50%減)の余地
後戻り困難(再度コストが発生)建物については同様に困難。ただし土地は動いていない

土地の含み益が大きい物件ほど、建物だけを移す設計の利点が大きくなります。譲渡益の大半が土地から出るからです。逆に、建物の簿価が下がりきっていて譲渡益の多くが建物から出る物件では、建物だけを移しても入場料はさほど下がりません。まずどちらに含み益が乗っているかを確認してください。

まとめ

建物だけを法人に移すと、モデルケースでは入場料が約620万円から約310万円へ下がります。ただし法人が個人の土地を使うことになり、権利金の認定を受けるのは個人ではなくご自身の法人です(法人税法22条2項)。よく引かれる法人税基本通達13-1-3は地主が法人の場合の定めで、そのままは当てはまりません。避ける方法は2つで、相当の地代(更地価額の年6%程度。モデルで年240万〜300万円)を払うか、無償返還の届出を出すか。中小同族法人の建物のみ移転では、後者が選ばれやすいところです。届出は契約書の定めが前提で、借地人との連名で、遅滞なく、土地所有者の納税地の所轄税務署長へ。

地代には下限もあります。公租公課相当額以下では使用貸借となり、届出を出していても相続時の貸宅地は自用地としての価額のままで、貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例も使えません。モデルでは年12万円ほど、都市計画税が課されない地域なら年8万円ほどが目安です。その2割引も、引いた分は同族会社の株式に移り得るので、承継する人を分けて初めて意味が出ます。

第5回法人化1年目の減価償却 中古資産の耐用年数は法人第1期でしか決められないでは、法人化1年目の実務として、個人の確定申告と法人第1期をどう並走させるかを、並走する2つの申告のなかで最も取り返しがつかない一点——中古資産の耐用年数——に絞って取り上げています。

当事務所では、建物のみ移転の設計(賃貸借契約書の条項、地代水準の試算、無償返還の届出書と添付明細の作成)から、法人設立後のfreee初期設定(個人と法人の事業所・口座・物件データの分離)までを支援しています。物件一覧(所在地・用途・取得日・取得価額・簿価・家賃・名義)と固定資産税の課税明細書をご用意いただけると、初回から具体的な試算ができます。


出典(一次情報)

  • 法人税法22条2項(無償による資産の譲受けに係る収益の益金算入)
  • 法人税基本通達13-1-2(使用の対価としての相当の地代。本文は「おおむね年8%程度」)、同(注)1(土地の更地価額は、課税上弊害がない限り、公示価格等から合理的に算定した価額または財産評価基本通達第2章の例により計算した価額によることができる旨)、13-1-3(地主が法人の場合の権利金の認定)、13-1-7(土地の無償返還の届出があった場合の権利金の認定見合せ)
  • 平成元年3月30日直法2-2「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」(当分の間、年8%を年6%と読み替える/更地価額の過去3年間の平均額)
  • 国税庁 タックスアンサー No.5732「相当の地代及び相当の地代の改訂」
  • 国税庁 手続 C1-63「土地の無償返還に関する届出」(提出時期=遅滞なく/提出先=土地所有者の納税地の所轄税務署長/添付書類=契約書の写し、土地の価額の計算の明細その他参考となる事項を記載した書類/土地所有者が個人である場合でも提出できる旨)
  • 昭和60年6月5日直資2-58「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」5(借地権の価額は零)、6の(1)、6の(注)・8のなお書(同族会社への貸付けは43年直資3-22通達の適用がある旨)、8(貸宅地は自用地としての価額の100分の80)、8の(注)(使用貸借に係る土地は自用地としての価額)
  • 昭和43年10月28日直資3-22「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(控除した借地権の価額を同社の純資産価額に算入する旨)
  • 昭和48年11月1日直資2-189「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」1(土地の公租公課に相当する金額以下の授受は使用貸借に該当する旨)
  • 所得税基本通達59-4(低額譲渡の判定は契約ごとの対価の合計額による旨)、同59-5(法59条1項の「譲渡所得の基因となる資産の移転」に借地権等の設定は含まれない旨)
  • 財産評価基本通達186-2(純資産価額の計算における評価差額に対する法人税額等に相当する金額の控除)
  • 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)、国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」(貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額/準事業は「相当の対価を得て継続的に」行う不動産の貸付け)
  • 地方税法349条の3の2第2項(小規模住宅用地の固定資産税の課税標準は価格の6分の1)、同法350条1項(固定資産税の標準税率1.4%)、同法702条1項(都市計画税の課税客体)、同法702条の3第2項(小規模住宅用地の都市計画税の課税標準は価格の3分の1)、同法702条の4(都市計画税の税率は100分の0.3を超えることができない)
  • 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」

※本記事は2026年8月時点の制度に基づく一般的な解説です。モデルケースの金額は説明のための仮定値であり、実際の税額・地代は物件の評価額・所在地・課税事業者の判定などにより異なります。地代の下限の試算は、敷地がすべて小規模住宅用地に該当し、固定資産税が標準税率・都市計画税が上限税率で課されることを前提とした概算で、負担調整措置は考慮していません。小規模宅地等の特例は、貸付けが「相当の対価を得て継続的に」行われていることのほか、取得者・保有・貸付けの継続などの要件をすべて満たす場合に適用されるもので、本稿の減額額は敷地が200㎡以内で要件を満たした場合の上限を示した概算です。また、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則として対象から外れます(3年以内貸付宅地等。相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた場合を除きます)。法人化に伴って土地の貸付けの形が変わる場合にこの除外に当たるかどうかは、個別に確認が必要です。地代の水準の設定、契約書の条項、届出の要否と時期はいずれも個別判断を要しますので、実行前に税理士にご相談ください。

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