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YANAI TAX OFFICE ・ CHIGASAKI / SHONAN

物件を法人にいくらで移すか 譲渡価額の下限と上限、時価の決め方

第1回(「物件を法人に移すか」が最初の論点になる理由)では所有移転方式の「入場料」を、第2回(サブリース・管理料方式で法人にいくら落とせるか)では移さない2方式の効果と限界を整理しました。

移すと決めた方が次に突き当たるのが、いくらで移すかです。同族会社への売買には値段交渉の相手がいないため、金額は自分で決められるように見えます。ところが実際には、下げすぎても上げすぎても課税が動きます。本稿では譲渡価額の下限と上限、時価の根拠づけ、そして土地建物の按分が何を動かすかを扱います。

1. 譲渡価額は「決める」のではなく、帯の中から「選ぶ」

譲渡価額は、2本の線に挟まれた帯の中から選ぶものです。下限は時価の2分の1で(所得税法59条1項2号、同法施行令169条)、ここを割ると実際に受け取った金額ではなく時価で譲渡したものとみなされます。上限に明文はありませんが、実務上は時価が上限と考えます。超えた部分は譲渡所得の枠から出ていくためです(第4節で詳述します)。

厄介なのは、帯の両端を決める基準点である「時価」について、不動産の譲渡価額をこう置けばよいと定めた通達が見当たらないことです。金額そのものより、その根拠のほうが問われる構造になっています。

2. 下限は時価の2分の1。ただし判定は資産ごとではなく契約ごと

個人が法人へ時価の2分の1に満たない対価で譲渡すると、その時の時価で譲渡があったものとみなされます(所得税法59条1項2号、同法施行令169条)。国税庁は、時価1億円の土地を4,000万円で同族会社に売れば収入金額は1億円になると説明しています(タックスアンサーNo.3217)。受け取っていない6,000万円に課税されるわけです。ここまでは第1回でも触れました。

その先の2点が本題です。

1つめ。2分の1の判定は、資産ごとではなく契約ごとに行います。 一の契約で2以上の資産を譲渡した場合、契約書に資産ごとの対価が定められていても、その契約で譲渡したすべての資産の対価の合計額を基として判定します(所得税基本通達59-4)。

第1回と同じモデルケース(時価は土地5,000万円・建物3,000万円の計8,000万円、取得費は土地4,000万円・建物は減価償却後の簿価2,000万円、固定資産税評価額は土地3,500万円・建物1,800万円)で、建物1,400万円・土地5,000万円と置いたとします。1本の契約なら対価の合計6,400万円が時価の2分の1(4,000万円)を上回るので、59条は発動しません。仮に土地と建物が別契約として扱われるなら、建物単独では1,400万円÷3,000万円=46.7%となり、建物について59条の問題が生じます。

ただし、契約書を分ければ結論を操作できるという意味ではありません。 同じ日に同じ相手と一体の条件で決めた取引なら、書面が2本でも全体として見られる余地があります。「安く見せる技法」ではなく「知らずに分けると事故になる」という警告として読んでください。

2つめ。「対価」には、債務を引き受けさせることなどによる経済的な利益が含まれます(所得税基本通達59-2)。借入金付きのまま移して法人に債務を引き受けさせると、現金の授受がゼロでも債務引受額が判定の分母に乗ります。贈与のつもりで移しても、債務引受けがあれば贈与ではなく低額譲渡(59条1項2号)として判定されます。

3. 2分の1以上でも終わりではない

時価の2分の1以上なら59条の適用はありません。ただし通達はそこで終わりません。2分の1以上の対価による法人への譲渡であっても、所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認)に該当する場合には、税務署長の認めるところによって、その資産の時価に相当する金額で譲渡所得の金額を計算することができるとされています(所得税基本通達59-3)。157条は第2回でサブリース方式・管理料方式のリスクとして扱った条文で、所有移転でも同じ形で残ります。

帰結は単純で、2分の1をわずかに上回る価額を狙う設計はしないということです。下限は事故を避けるためのラインであって、目標値ではありません。置きにいくのは時価そのものです。

4. 上限。高く売ると、20.315%が総合課税に変わる

安すぎは警戒されますが、高すぎは見落とされやすい論点です。個人の借入を法人に付け替えて完済したい、個人に現金を残したい。第2回で扱った「借入枠を増やしたい」という動機は、そのまま譲渡価額を高く置く誘因になります。

先にお断りしておくと、明文で「上限は時価」と定められているわけではありません。 以下は条文と通達からの組み立てなので、断定を避けて書きます。

法人が時価を超える対価を払った場合、その超過部分は経済的な利益の供与として寄附金に当たると扱われることになります(法人税法37条7項)。売主が法人の役員であれば、役員給与としての検討も残ります。役員給与とされれば、定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらないため全額が損金不算入になり(法人税法34条1項)、加えて源泉徴収漏れとして不納付加算税・延滞税の問題も生じます。

個人側では、超過部分は資産の譲渡の対価としての性質を持たないため、譲渡所得から外れます。法人からの贈与により取得する金品は一時所得とされ、そこから「業務に関して受けるもの」が除かれていますので(所得税基本通達34-1(5))、役員として受けたと見られる場合は給与所得として扱われることになります。

時価8,000万円の物件を1億円で移すと、超過部分2,000万円の課税は次のように変わります。すでに給与所得控除が上限の195万円に達する程度の給与収入があり、所得税の最高税率45%・復興特別所得税・住民税10%の帯に乗る方を想定した概算です(合わせて55.945%)。

  • 譲渡所得のまま:20.315%で約406万円
  • 一時所得:(2,000万円-特別控除50万円)×2分の1=975万円が総合課税の対象となり、約545万円
  • 給与所得:2,000万円が総合課税に乗り、約1,119万円

他に給与収入がなければ給与所得控除のぶん下がりますし(最高税率帯にある前提だけを機械的に残すと、給与所得1,805万円で約1,010万円)、実際には税率の帯そのものも変わります。押さえていただきたいのは金額そのものではなく、分離課税の20.315%が総合課税の累進税率に置き換わるという方向です。 時価を超える価額を目標にしない設計が基本になります。

5. では時価はどう出すのか

ここは正直に書いておきます。所得税法59条の「その時における価額」について、不動産の譲渡価額の算定方法を定めた通達は、所得税基本通達にも個別通達にも置かれていません。

同じ59条の世界でも、株式には「その時における価額」を財産評価基本通達の例により算定してよいという明文があります(所得税基本通達59-6)。不動産には、これに当たる定めがない。相続税評価額を使ってよいと国税庁が書いているのは地代の計算という限られた場面についてで、しかも「課税上弊害がない限り」という条件付きです(法人税基本通達13-1-2の(注)1)。譲渡価額にそのまま流用できる定めではありません。

国税庁が不動産について書いているのは、負担付贈与や個人間の対価を伴う取引では路線価等ではなく「通常の取引価額」によるということまでで(平成元年3月29日直評5)、その通常の取引価額をどう出すかは示されていません。

序列は「明文がある順」ではなく、説明力が高い順で考えることになります。

時価の根拠実勢との関係費用
不動産鑑定士による鑑定評価書実勢そのものを算定数十万円〜
近傍類地の公示価格・基準地価格からの算定実勢に近い資料代程度
相続税評価額(路線価)ベース路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められる(国税庁の評定方針)実費のみ
固定資産税評価額ベース宅地は地価公示価格等の7割を目途に評価される(総務省の評価方針)。建物は再建築費を経年減点補正率で減価した額で、築年数により大きく変わる実費のみ

下2つには注意が要ります。路線価も固定資産税評価額も、実勢より低く出ることが制度の前提になっている数字です。そのまま譲渡価額にすると、金額の説明はできても時価との差が開き、下限側のリスクを自分で作ります。「相続税評価額で移せば安く済む」という発想は、いちばん危ない方向へ足を踏み出します。

金額が大きい、土地の形状や接道に個別性があるなら鑑定評価を取る。標準的な住宅地の一棟アパートなら、公示価格・基準地価格から算定した土地の価額と建物の簿価・再調達価額を並べ、なぜその金額になったのかを1枚の計算書で説明できる状態にしておく。関係者間の取引価額の根拠づけは、従業員に事業を譲るときの値段でも同じ形で出てきます。

6. 総額が決まったら内訳を決める。按分が動かすもの、動かさないもの

第1回では、土地・建物の対価の按分次第で消費税額・譲渡益・法人側の減価償却費が動く、と書きました。ここをもう一段分解します。

まず、契約書に金額を書けば内訳が決まるわけではありません。 消費税法は、課税・非課税が分かれる資産を同一の者へ同時に譲渡し、その対価が合理的に区分されていないときは譲渡時のそれぞれの価額の比で按分すると定めています(消費税法施行令45条3項)。通達も「合理的に区分しなければならない」とし、区分がなければ通常の取引価額を基礎とするとしています(消費税法基本通達10-1-5)。内訳を導いた計算根拠を残すところまでが1組です。

モデルケースの総額8,000万円を根拠別に割り振ると、次のようになります(第5節で固定資産税評価額ベースは危ないと書きましたが、総額を時価で置いたうえで内訳の比率にだけ使うぶんには問題ありません)。

按分の根拠土地建物(=法人の建物取得価額)建物の消費税(課税事業者の場合)譲渡益の内訳(土地/建物)
時価比(5,000/3,000)5,000万円3,000万円300万円1,000万円/1,000万円
固定資産税評価額比(3,500/1,800)約5,283万円約2,717万円約272万円約1,283万円/約717万円

総額8,000万円は税抜で、消費税欄は建物対価を税抜の本体価額として置いた概算です。

動くもの1つめは、建物の対価に乗る消費税です。 時価比と固定資産税評価額比では建物が283万円違い、消費税で約28万円動きます。ただしモデルの個人は免税事業者なので、この列は実際には0円です。2つめは、法人の建物取得価額で、これが減価償却の元本になります。

動かないのは、個人の譲渡益の合計です。 総額8,000万円・取得費合計6,000万円が動かない以上、譲渡益は按分をどう変えても2,000万円のまま。動くのは土地と建物への内訳であって、合計ではありません。第1回で「按分次第で譲渡益が動く」と書いたのは、この内訳のことです。

ただし、これが言えるのは土地の取得費と建物の簿価がそれぞれ別に確定していて、かつ土地・建物が同じ区分(ともに長期、またはともに短期)に入る場合です。区分が土地と建物で違えば、按分は税額そのものを動かします。長期は20.315%、短期は39.63%(タックスアンサーNo.3208、No.3211)。モデルとは別の物件になりますが、土地は先代からの長期・建物は4年前に建て替えた短期という物件で建物への配分が283万円動くと、その部分に19.315ポイントの税率差が乗り、約55万円の差になります。

なお、土地を個人に残して建物だけを移す設計もあります。地代の水準と無償返還の届出は論点が独立しているので、次回に単独で扱います。

まとめ

譲渡価額は自由に決めるものではなく、下限と上限に挟まれた帯の中から選ぶものです。下限は時価の2分の1で、判定は契約ごとの対価合計。実態が一体の取引なら、書面の数にかかわらず一の契約として見られる余地がありますし、その先には157条も残ります。契約の形ではなく、価額そのものを時価に寄せてください。

基準点となる時価に、当てはめられる明文は見当たりません。だからこそ、なぜその金額になったのかを説明できる資料を譲渡の前に作っておくことが実質的な防御になります。その資料は按分の根拠としても、次回に扱う無償返還の届出書の添付書類としても、そのまま使えます。

按分は建物に乗る消費税と法人の減価償却費を動かしますが、土地の取得費と建物の簿価がそれぞれ確定している限り、譲渡益の合計は動きません(個人が課税事業者の場合は、消費税の経理方法によって結論が変わり得ます)。ただし土地と建物で長期・短期の区分が違う物件では、按分が税額そのものを動かします。まずご自身の物件の取得時期を確認してください。

土地を外して建物だけを移す場合の地代設計と無償返還の届出は第4回建物だけを法人に移す 地代の決め方と無償返還の届出書で、法人化1年目の実務は第5回法人化1年目の減価償却 中古資産の耐用年数は法人第1期でしか決められないで扱っています。

当事務所では、譲渡価額の根拠資料の組み立て、土地建物の按分計算と計算書の作成、契約書の内訳の設計から、法人設立後のfreee初期設定(個人と法人の事業所・口座・物件データの分離)までを支援しています。物件一覧(所在地・用途・取得日・取得価額・簿価・家賃・名義)と固定資産税の課税明細書をご用意いただけると、初回から具体的な試算ができます。


出典(一次情報)

  • 所得税法59条1項2号、同法施行令169条、同法157条、所得税基本通達59-2(低額譲渡)、59-3(同族会社等に対する低額譲渡)、59-4(一の契約により2以上の資産を譲渡した場合の低額譲渡の判定)、59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
  • 国税庁 タックスアンサー No.3217「時価より低い価額で売ったとき」、No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」、No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」、No.2260「所得税の税率」、No.1490「一時所得」、No.1410「給与所得控除」
  • 法人税法37条7項(寄附金の額)、同法34条1項(役員給与の損金不算入)、所得税基本通達34-1(5)
  • 消費税法施行令45条3項、消費税法基本通達10-1-5、国税庁 質疑応答事例「建物と土地との一括譲渡の場合の課税標準」(同事例が参照する租税特別措置法62条の3・63条は、令和8年3月31日までに行う土地の譲渡等について適用しないこととされています)
  • 法人税基本通達13-1-2の(注)1(土地の更地価額は、課税上弊害がない限り、公示価格等から合理的に算定した価額または財産評価基本通達第2章の例により計算した価額によることができる旨)
  • 国税庁「令和8年分の路線価等について」(路線価等は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めている旨)
  • 総務省「固定資産税の概要」(土地・家屋・償却資産の評価の仕組み。宅地は地価公示価格等の7割を目途に評価する旨。平成6年度評価替えから導入。家屋は再建築価格及び経年減点補正率等に応じて評価額を算定する旨)
  • 平成元年3月29日直評5・直資2-204「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(負担付贈与または個人間の対価を伴う取引により取得した土地等・家屋等は通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨)

※本記事は2026年8月時点の制度に基づく一般的な解説です。モデルケースの金額は説明のための仮定値であり、実際の税額は物件の評価額・取得時期・課税事業者の判定などにより異なります。第4節の概算税額は、給与所得控除・既存の所得・復興特別所得税の扱いを単純化したものです。また、時価を超える対価で譲渡した場合の法人側・個人側の取扱いは条文および通達からの整理であって、事実関係によって結論が異なり得ます。本稿の「通達が置かれていない」という記述は、執筆時点で国税庁が公開する法令解釈通達・個別通達・質疑応答事例・タックスアンサーを確認した範囲でのものです。譲渡価額(時価)の決定、土地建物の対価按分、契約書の組み方はいずれも個別判断を要しますので、実行前に税理士にご相談ください。

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